過失相殺とは、労働災害(労災)の損害賠償請求を行う際に、被害者自身にも落ち度(過失)があった場合に、被害者の過失の比率分が、請求できる損害賠償額から控除(減額)されることを言います。
労働災害の損害賠償請求では、過失相殺が問題となることが少なくありません。
この点、被害者に過失がある場合であっても、損害賠償請求を行うことは可能であり、裁判例によると、被害者の過失が20%~30%以内とされている例が多いように見受けられます。
一方で、被害者の過失の比率が高く認定された事例として、裁判例では、被害者がプレス等の特に危険な機械の操作・作業において安全装置を使用せず、その他にも基本的な作業上の安全確認を怠った場合や、被害者が現場で車両やクレーン等の合図・誘導などに関与しながら、その車両等の動静に注意せず自身の安全確保をしなかったために被害に遭った場合などで、40%程度の過失相殺(請求できる損害賠償額から40%程度の減額)が認められています。
また、高所での作業でありながら日頃の会社側の注意に反して被害者が命綱の使用などの転落防止のための措置をとらなかった場合で、50%程度の過失相殺が認められています。
さらに、高所作業・有毒ガス発生などの明らかに危険な業務において、被害者がその危険性を分かっていながら安全帯・保護具などを着用せず、きわめて軽率な態度で作業・行動をしたために被害に遭った場合で、60%以上の過失相殺が認められています。
もっとも、被害者の過失の比率が高く認定されるのは、被害者の著しく不安全な行動が主要な原因となって労働災害が発生したような事例に限られると思われます。
損害賠償請求の示談交渉や訴訟(裁判)では、会社側から大幅な過失相殺の主張が出されることがありますが、会社側の主張を鵜呑みにしてはいけません。
実際には、被害者の過失が会社側の主張よりもずっと小さく、会社側に大きな過失があるというケースも多いです。
過失相殺が認められるケースかどうか、過失の比率分(過失相殺の割合)がどれくらいになるかは、それぞれの労働災害の事故状況等によって様々です。
したがって、現に会社からご自身の落ち度を指摘されている場合や、過失相殺について疑問に思われる場合などには、労働災害の問題に詳しい弁護士にご相談されることをお勧めいたします。