受け取れる補償は労災保険だけではありません

弁護士木村哲也

労働災害(労災)の被害者の方やご遺族の方が、労災保険給付を受け取るだけで終わりとしてしまっている例が多く見受けられます。しかし、労災保険では、被害者が被った損害のごく一部しか補償されることはありません。

労働災害の発生について、会社側に過失(落ち度)がある場合には、労災保険給付で不足する部分の損害を、会社側に対して賠償請求することができます。労働災害の被害に遭われた場合には、被害者の方やご遺族の方の生活に多大な影響が及びます。今後の生活を安定させるためには、十分な補償を受けていただくことが不可欠です。

労働災害の被害に遭われた場合には、労災保険給付のみで終わらせてしまうのではなく、会社側に対する慰謝料・損害賠償の請求をご検討いただければと存じます。

こんな場合は会社側に慰謝料・損害賠償を請求できます

会社側に安全配慮義務違反が認められるとき

会社側には、労働者が生命や身体等の安全を確保することができるように、必要な配慮をする法的義務があります。これを安全配慮義務と言います。会社側に安全配慮義務の違反が認められる場合には、被害者側は会社側に対して慰謝料・損害賠償の請求を行うことができます。

安全配慮義務としては、労働者の健康、人命の尊重の観点から、その時代にでき得る最高度の環境改善に努力することを要すると考えられています。労働安全衛生関係法令を遵守することはもちろん、より広範囲の配慮をすることが必要であると解されています。具体的な内容としては、過去の裁判例から、次のように分類することができます。

【設備・作業環境】
①施設、機械設備の安全化あるいは作業環境の改善対策を講ずる義務
②安全な機械設備、原材料を選択する義務
③機械等に安全装置を設置する義務
④労働者に保護具を使用させる義務

【人的措置】
①安全監視人等を配置する義務
②安全衛生教育訓練を徹底する義務
③労働災害の被害者、健康を害している者等に対して治療を受けさせ、適切な健康管理、労務軽減を行い、必要に応じ、配置換えをする義務
④危険有害業務には有資格者、特別教育修了者等の適任の者を担当させる義務

会社側が安全配慮義務を十分に尽くしていれば、労働災害が発生する危険を最小限に抑えることができます。逆に言えば、労働災害が発生したということは、会社側に何らかの安全配慮義務違反が認められることが多いものです。

会社側に労働安全衛生関係法令の違反が認められるとか、上記のような設備・作業環境面または人的措置面における会社側の落ち度があると考えられる場合には、会社側の損害賠償責任が肯定される可能性が高いでしょう。

会社側に使用者責任が成立するとき

同じ現場で作業をしていた他の従業員のミスで、労働災害の被害に遭うケースも多々あります。このように、故意または過失によって被害者に損害を負わせた加害者は、被害者が被った損害を賠償しなければなりません。これを不法行為責任(民法709条)と言います。不法行為責任が成立するための要件は、以下の4点です。

【不法行為責任の要件】
①加害者に故意または過失が存在すること
②被害者の権利を侵害したこと
③被害者に損害が発生したこと
④加害者の行為と被害者の損害との間に因果関係が存在すること

そして、不法行為責任が成立する加害者本人だけではなく、加害者を雇用等している会社に対しても、慰謝料・損害賠償を請求することができる場合があります。使用者責任(民法715条)が成立する場合です。使用者責任とは、従業員が業務の執行について被害者に損害を加えた場合に、従業員を雇用等で使用する会社が損害賠償責任を負うことを言います。使用者責任が成立するための要件は、以下の3点です。

【使用者責任の要件】
①加害者と会社との間に使用・費用の関係が存在すること
②被用者の行為について不法行為責任が成立すること
③被害者の損害が会社の事業の執行について加えられたものであること

労働災害の発生が、同じ現場で作業をしていた他の従業員のミスによるときは、基本的には上記の使用者責任の要件を満たすものと考えられます。したがって、使用者責任に基づき、会社に対して慰謝料などの損害賠償を請求できるのが通常です。

労災保険給付では損害のごく一部しか補償されません

労災保険給付の金額は、労働災害によって被った損害と比較して、ごく少額の補償しか行われません。特に、労災保険からは、慰謝料が一切補償されないという点には、ご注意いただければと存じます。

労働災害の被害による慰謝料としては、お怪我をされたことに対する傷害慰謝料が、大きなお怪我であれば数十万円から百万円以上認められるのが通常です(お怪我の内容や入通院の期間・日数などにより異なります)。後遺障害が残存したことによる後遺障害慰謝料は、後遺障害の程度に応じて、110万円(後遺障害14級)程度から2800万円(後遺障害1級)程度と算出されます。被害者の方が死亡されたことによる死亡慰謝料は、被害者の方の立場(一家の支柱であるかどうかなど)によって、2000万円から3000万円程度と認定されるのが通常です。

しかし、以上の慰謝料は、いずれも、労災保険からは一切補償がありません。労災保険給付だけでは補償として不十分である最大の理由は、この点にあります。慰謝料の補償を求めるのであれば、上記の安全配慮義務違反や使用者責任を根拠として、会社側に対して損害賠償を請求していく必要があるのです。

また、労働災害の被害者側としては、慰謝料だけではなく、休業損害や逸失利益、死亡事故や重大事故では葬儀費用や介護費用など、様々な損害を被るものです。これらの損害についても、労災保険が全額補償してくれるわけではありません。十分な補償を受けることを求めるのであれば、会社側に対する損害賠償請求を行うことが必要です。

被害者側に過失がある場合でも諦めないようにしましょう

労働災害の被害に遭われた場合に、会社側の過失だけではなく、被害者側にも過失があるケースも存在します。しかし、会社側が安全配慮義務を十分に尽くしていれば、労働災害はそうそう発生しないものです。労働災害が発生した以上は、会社側に損害賠償責任が認められるケースが多々ありますので、被害者側に過失がある場合でも諦めてはいけません。

確かに、被害者側に過失がある場合には、被害者の過失割合分、賠償請求できる金額が少なくなってしまいます。例えば、2000万円の損害を被った場合に、被害者に30%の過失があれば、賠償額が3割減額されて1400万円となります。これを過失相殺と言います。しかし、被害者側に過失があるかどうか、過失があるとして何割程度なのかは、複雑で専門的な判断が必要となってきます。被害者の方はご自身では過失が大きいと思っていても、法律家の目から見たときに会社側の過失が圧倒的に重いというケースも多々あるものです。労働災害の被害に遭われた場合には、ご自身の判断だけで法的責任の有無を決めつけるのではなく、諦めずに法律の専門家である弁護士にご相談いただくことが大切です。

中には、労働災害が発生した場合に、被害者の不注意であると開き直り、損害賠償の話に一切応じようとしない会社なども存在します。このような場合でも、会社側の言いなりになって慰謝料などの損害賠償の請求を断念するのではなく、まずは労働災害に精通した弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。

十分な補償を受け取るためには弁護士にご相談を

以上のように、今後の生活を見据えた十分な補償を受け取るためには、会社側に対して慰謝料などの損害賠償請求を行うことをご検討いただければと存じます。八戸シティ法律事務所では、これまでに、労働災害と慰謝料・損害賠償に関するご相談・ご依頼を多数お受けして参りました。慰謝料などの損害賠償請求についてお悩みのことがありましたら、まずはお気軽に八戸シティ法律事務所にご相談ください。