1 労災事故の逸失利益とは

労災事故の逸失利益とは、労災事故が発生しなければ将来にわたって得られたであろう収入の減少分を指します。
そして、労災事故の逸失利益には、後遺障害逸失利益と死亡逸失利益の2種類があります。
2 逸失利益の種類とは
(1)後遺障害逸失利益
後遺障害逸失利益とは、労災事故により後遺障害が残ったことによって、労働能力が低下・喪失しなければ将来得られたであろう収入の減少分を指します。
後遺障害とは、怪我の「症状固定」時に残存する、将来においても回復が困難と見込まれる精神的・身体的な毀損状態(本来の機能や状態が失われたり、低下したりしている状態)であり、医学的に認められ、かつ労働能力の喪失を伴うものを指します。
「症状固定」とは、これ以上治療を続けても症状が良くも悪くもならない状態をいい、逸失利益はこの時点以降の損害として認められます。
(2)死亡逸失利益
死亡逸失利益とは、被災した労働者が労災事故によって死亡しなければ、将来の就労可能な期間において得られたであろう収入のことを指します。
後遺障害逸失利益との最大の違いは、後に説明しますが、損害額を計算する時に、死亡によって不要となる生活費を控除する点にあります。
3 逸失利益の計算方法
(1)後遺障害逸失利益の計算方法
後遺障害逸失利益は、次の算式で計算されます。
基礎収入(年収)×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
「基礎収入(年収)」は、原則として、労災事故前の現実の収入を基準とします。
これには本給のほか、歩合給、各種手当、賞与が含まれ、税金等を控除しない額を用います。
将来も時間外労働をする蓋然性が高い場合や、給与規定等から確実に昇給が見込まれる場合には、時間外手当や昇給を考慮することがあります。
現実の収入が賃金センサスの平均賃金を下回る場合でも、将来平均賃金を得られる十分な可能性があれば平均賃金を採用します。
特に30歳未満の労働者の場合は、全年齢平均の賃金センサスを用いることがあります。
「労働能力喪失率」は、労働省(現厚生労働省)の通牒に基づく「労働能力喪失率表」を参考とします。
同表には、障害等級(第1級の100%から第14級の5%まで)に応じて標準的な割合が定められています。
障害の内容によっては、等級が認定されても実際の労働に影響がない(例:歯牙欠損や外貌醜状の一部)と判断され、逸失利益が否定または制限される場合もあることには注意が必要です。
「労働能力喪失期間」は、原則として「症状固定」の日から「67歳」までとされます。
ただし、高齢者の場合は平均余命の2分の1とするなどの調整が行われることがあります。
そして、将来得られるはずの収入を一時金として前払いで受けるため、将来の利息分を控除する必要があります。
実務上は、労働能力喪失期間に対応する複利計算に基づく「ライプニッツ係数」を用いて算出します。
(2)死亡逸失利益の計算方法
死亡逸失利益は、次の算式で計算されます。
基礎収入(年収)×(1-生活費控除率)×就労可能期間に対応する中間利息控除係数(ライプニッツ係数)
「基礎収入(年収)」は、原則として被災した労働者の死亡時の年収を基礎とします。
後遺障害逸失利益の計算の場合と同様に、30歳未満の労働者の場合は、全年齢平均の賃金センサスを用いることがあります。
「就労可能期間」は、原則として67歳までを終期として計算します。
「生活費控除率」は、死亡によって本人の生活費が不要となるため、一定の割合を控除するために用いられています。
実務上一般的に用いられる割合は以下の通りです。
一家の支柱:被扶養者が1名の場合は40%、2名以上の場合は30%
一家の支柱以外:女性(主婦、独身、幼児等含む)は30%、男性(独身、幼児等含む)は50%
そして、将来の収入を現在一括して受領することから、将来発生する利息分(中間利息)を控除する必要があり、複利計算による「ライプニッツ方式」を用いて算出することは、後遺障害逸失利益の計算の場合と同様です。
そのほか、稼働による逸失利益のほかに、老齢年金や障害年金についても平均余命までの期間について逸失利益が認められる場合があります。
4 会社に対して逸失利益の請求をする方法
労災事故において会社に対して逸失利益を請求するには、安全配慮義務違反や不法行為責任を根拠とした民事上の損害賠償請求を行う必要があります。
安全配慮義務とは、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働できるよう必要な配慮をする義務です。
これらの責任が認められるためには、労災事故の発生について会社に故意・過失があることや、結果を予見し回避することが可能であったか(予見可能性・結果回避義務)が重要な判断基準となります。
逸失利益は、労災保険給付では十分に填補されないため、その差額分を会社に請求することになります。
このことから、会社に損害賠償を請求する際、労災保険からすでに支払われた障害補償給付等の額は、逸失利益の額から控除されます(特別支給金は控除しません)。
また、労災保険は主として逸失利益の補償を行うため、慰謝料などの労災保険でカバーされない損害については、控除の影響を受けずに請求可能です。
請求にあたっての留意事項としては、労働者側に過失や素因がある場合は、民法に基づき損害賠償額が減額(過失相殺・素因減額)されること、後遺障害等級が認定されても、職種等によっては「労働に影響がない」と判断され、逸失利益が否定または制限される場合があることなどがあります。
5 逸失利益の請求の流れ
労災事故の逸失利益の請求は、①治療・症状固定、②後遺障害等級認定、③損害額計算、④会社への損害賠償請求の順に進みます。
①治療・症状固定の段階では、「症状固定」となるまで治療を継続します。
労災の認定を受けると、治療期間中は労災保険から休業補償給付等を受け取ることができます。
②後遺障害等級認定の段階では、労働基準監督署に後遺障害診断書等を提出し、障害等級(1〜14級)の認定を受けます。
③損害額の計算(逸失利益の計算)の段階では、前述の計算方法に従って逸失利益の計算を行います。
④会社への損害賠償請求の段階では、労災保険の給付(障害補償年金/一時金)では不足する分について、安全配慮義務違反等を理由に会社へ損害賠償を求めます。
交渉でまとまらない場合は、裁判所での訴訟手続へ移行します。
6 ご自身で進めることはできる?
結論から言いますと、ご自身またはご遺族で進めることは可能ですが、難易度は高いです。
一般的に、会社に対する損害賠償請求は、会社側が賠償を拒否したり、金額で折り合いがつかなかったりするため、労災や法律の専門的な知識と交渉力が必要となります。
また、会社へ損害賠償請求する前に、まず労災申請を行い、労災認定と「後遺障害等級」の認定を受けることが、正しい逸失利益の算定に必須ですが、そのための資料収集や書類作成においても、専門的な知識が必要となります。
そして、逸失利益の計算方法も、複雑な数式で算出するため、法律と実務の知識が求められます。
さらに、会社の安全配慮義務違反や不法行為責任を証明する証拠を集める必要もあります。
このようなことからすると、ご自身またはご家族で進めることの難易度は高いといえます。
7 労災に関するお悩みを弁護士に相談・依頼するメリット
労災事故の逸失利益の請求や、後遺障害等級認定を弁護士に相談・依頼する主なメリットは、損害賠償の増額、適切な後遺障害等級の認定、会社への損害賠償請求にあります。
弁護士に相談・依頼をすれば、複雑な逸失利益の計算を任せることができるのみならず、弁護士は裁判所基準で計算するため、慰謝料や逸失利益が増額できる可能性が高いというメリットがあります。
また、弁護士は、医学的知識に基づき、医師への診断書作成のアドバイスや等級認定の申請を行うため、適正な等級が認められやすくなるというメリットもあります。
さらに、会社が損害賠償を拒否する場合などに、代理人として安全配慮義務違反を追及し、迅速に交渉を進めることができます。
8 労災に関するお悩みは当事務所にご相談ください
「後遺障害が残ったが、適切な等級がわからない」
「損害賠償額(逸失利益)の計算が適正か知りたい」
「後遺障害によって働くことに制限があるが、労災保険の支給だけでは十分ではない。会社から補償が受けられないか?」
「会社が労災を認めてくれない」
労災に関する悩みは、専門的な対応が不可欠です。
当事務所では、労災に関するお悩みの初回相談は無料ですので、費用を気にせず、安心してご相談いただけます。
また、労災問題を多く取り扱う弁護士が、証拠の収集、労災の申請から会社との交渉・裁判までしっかりとサポートします。
労災の申請や損害賠償請求でお困りの方は、一人で悩まず、ぜひ当事務所へご相談ください。
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