労働災害の被害に遭われた場合、労災保険からの給付を受けることができますが、労災保険からは被った損害の一部が補償されるものに過ぎません。
会社側に不法行為責任、安全配慮義務違反、使用者責任が認められる場合には、会社側に対して、労災保険では補償されなかった分の損害の賠償を請求することができます。

会社側に対して損害賠償請求をする際に主張できる主な損害項目は、下記の表のとおりとなります。

損害項目 内容
治療関係費 治療費・付添看護費・入院雑費・通院交通費・装具代などへの賠償。
休業損害 怪我のために減少した収入への賠償。
傷害慰謝料 怪我による精神的苦痛への賠償
後遺障害逸失利益 後遺障害による将来の収入減少への賠償。
後遺障害慰謝料 後遺障害による精神的苦痛への賠償。

なお、上記は死亡に至らない場合の損害項目です。
死亡事故については、こちらをご覧ください。
●死亡事故のご遺族の方へ

治療関係費

治療関係費については、原則として、労災保険から支給されます。

休業損害

休業損害については、「賃金の日額×休業日数」で算定されますが、労災保険からは、賃金の6割分の休業(補償)給付と2割分の休業特別支給金とが支給されます。
2割分の休業特別支給金は、損害賠償とは関係なく受け取ることができますので、4割分が会社側への損害賠償の対象となります。

障害慰謝料

傷害慰謝料については、入通院の期間と傷害の程度に応じた基準により金額が決まりますが、労災保険からの補償は一切ありません。
そのため、傷害慰謝料を請求する場合には、会社側への損害賠償請求を行うことが必要です。

後遺障害逸失利益

後遺障害逸失利益は、次の式によって算出されます。

年収×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

算定のベースとなる年収は、現実の収入額を用いるのが通常ですが、若年で増収の見込みがある場合には、統計上の全年齢の平均賃金額を使用することなどがあります。
労働能力喪失率は、後遺障害によって稼働能力が制約を受ける割合のことであり、1級の100%~14級の5%まで、標準的な数値が存在します。

労働能力喪失期間は、原則として67歳までとされますが、高齢者の場合には平均余命の2分の1の年数が認定されるのが通常です。
また、年数をそのまま掛けるのではなく、将来にわたって被る損失を一括払いで賠償を受ける点を考慮して、3%の中間利息控除を行ったライプニッツ係数という数値を使用します。

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料については、1級から14級までの障害等級に応じた標準額がありますが、労災保険からの補償は一切ありません。
そのため、後遺障害慰謝料を請求する場合には、会社側への損害賠償請求を行うことが必要です。

控除されるもの

以上で算出した各損害の合計額から、労災保険の給付などで填補された分を控除して、会社側に対して損害賠償請求を行うこととなります。
ただし、労災保険からの給付のうち、休業特別支給金や障害特別支給金、将来の年金給付分は控除されません。

また、被害者側にも過失(落ち度)がある場合には、過失相殺と言って、被害者の過失割合分が、会社側に対して請求できる損害賠償金の額から差し引かれることとなります。

労働災害に関する基礎知識についてはこちらもご覧下さい

●労働災害に関する基礎知識
●労働災害とは
●労災保険の申請手続
●労災申請の手続の流れ
●労働災害の被害に遭った時にかかるべき医療機関と制度の仕組み
●労働災害と後遺障害等級
●後遺障害が残った場合の補償について
●後遺障害等級を適正化するポイント
●労災保険の不支給決定に対する不服申立ての手続
●労働災害と損害賠償(労災保険の給付以外に受けられる補償)
●入院・通院時の損害賠償
●労働災害における慰謝料の請求
●休業中の補償について
●損害賠償金の計算方法
●過失相殺について