労働災害の被害に遭われた場合、所轄の労働基準監督署に対して、保険給付の申請を行うことで、各種の労災保険の給付を受けることができます。
申請は、被害者本人またはその遺族が行います。
実際には、会社側が手続を行うことも少なくありませんが、これは、あくまでも手続を代行しているに過ぎません。
労働基準監督署は、申請があった場合には、必要な調査を実施した上で、労災認定を行い、各種の保険給付の支給決定を行います。

労災保険の給付の種類とその申請方法については、次のとおりです。

1 療養(補償)給付

療養(補償)給付には、「療養の給付」と「療養の費用の支給」の2種類がありますが、「療養の給付」が原則となります。

「療養の給付」は、労災病院や指定医療機関等で、無料で、治療を受けたり薬剤の支給を受けたりといった現物の給付を受けることをいいます。
業務中の労働災害の被害者が療養の給付を受ける場合には、「療養補償給付たる療養の給付申請書」(様式第5号)に必要事項を記載して、治療を受けようとする労災病院等を経由して、労働基準監督署に提出します。

「療養の費用の支給」は、労災病院や指定医療機関等以外の医療機関で療養(治療)を受けた場合に、その療養にかかった費用が支給されるものです。
業務中の労働災害の被害者が療養の費用の支給を受ける場合には、「療養補償給付たる療養の費用請求書」(様式第7号)に必要事項を記載して、労働基準監督署に提出します。

2 休業(補償)給付

労働災害の被害に遭ったため働くことができず、賃金を受け取っていない場合には、休業の4日目から、休業(補償)給付を受け取ることができます。
業務中の労働災害の被害者が休業補償給付を受ける場合には、「休業補償給付請求書・休業特別支給金支給申請書」(様式第8号)に必要事項を記載して、労働基準監督署に提出します。

休業した日数分をまとめて一括請求するのか、分割請求するのかは、請求する被害者が自由に選択することができます。
休業が長期間になる場合は、1か月ごとに請求することが多いですので、忘れないように申請するようにしましょう。

3 傷病(補償)年金給付

療養(補償)給付を受けている被害者の傷病が、療養(治療)開始後1年6か月を経過しても治らない場合であって、その傷病の程度が一定の障害の程度にあたる場合には、傷病(補償)年金の支給を受けることができます。
傷病(補償)年金の支給・不支給の決定は労働基準監督署長の職権で行われますので、申請手続はありません。
もっとも、療養開始後1年6か月を経過しても傷病が治っていないときは、その後1か月以内に「傷病の状態等に関する届」(様式第16号の2)を労働基準監督署に提出する必要があります。

また、療養開始後1年6か月を経過しても、傷病(補償)年金の支給要件を満たしていない場合には、毎年1月分の休業(補償)給付を請求する際に、「傷病の状態等に関する報告書」(様式第16号の11)を併せて提出する必要があります。

4 障害(補償)給付

労働災害による傷病が治った(症状固定した)ものの、身体に一定の障害が残った場合には、障害(補償)給付を受け取ることができます。
業務中の労働災害の被害者が障害補償給付を受ける場合には、「障害補償給付支給請求書・障害特別支給金支給申請書・障害特別年金支給申請書・障害特別一時金支給申請書」(様式第10号)に必要事項を記載して、労働基準監督署に提出します。

申請にあたっては、医師または歯科医師の後遺障害に関する診断書、障害の状態を証明できるレントゲン写真等の資料を添付する必要があります。
また、同一の障害について、障害厚生年金や障害基礎年金等の支給を受けている場合には、その支給額を証明することのできる書類の添付も必要となります。

5 遺族(補償)給付

労働災害の被害者が亡くなった場合、遺族は、遺族(補償)給付を受けることができます。
遺族(補償)給付には、「遺族(補償)年金」と「遺族(補償)一時金」の2種類があります。

業務中の労働災害のケースで遺族補償年金の給付の申請を行う場合には、「遺族補償年金支給請求書」(様式第12号)に必要事項を記載して、労働基準監督署に提出します。
申請にあたっては、被害者の死亡の事実及び死亡年月日を証明することができる書類(死亡診断書等)、被害者との身分関係を証明することができる書類(戸籍謄本等)等の書類を添付する必要があります。
遺族補償年金の受給資格者となるのは、被害者の死亡当時、その収入によって生計を維持していた配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄妹姉妹のうち、一定の条件を満たす者です。
受給資格者が複数人いる場合には、最先順位者のみに支給されます。

また、被害者の死亡当時、上記の遺族補償年金の受給資格者がいない場合等には、「遺族補償一時金」が遺族に対して支給されます。
この場合、「遺族補償一時金支給申請書」(様式第15号)に必要事項を記載して、労働基準監督署に提出します。
申請にあたって、添付する必要がある資料については、遺族補償年金の場合と同様です。
遺族補償一時金の受給資格者は、①配偶者、②被害者の死亡当時、その収入によって生計を維持していた子・父母・孫・祖父母、③その他の子・父母・祖父母、④兄妹姉妹であり、最先順位者のみに支給されます。

6 葬祭料(葬祭給付)

労働災害の被害者が亡くなった場合、その葬祭を行う遺族に対して、葬祭料(葬祭給付)が支給されます。
業務中の労働災害のケースでは「葬祭料請求書」(様式第16号)に必要事項を記入して、労働基準監督署に提出します。
申請にあたっては、被害者の死亡の事実及び死亡年月日を証明することができる書類(死亡診断書等)を添付する必要があります。

7 介護(補償)給付

障害(補償)年金、傷病(補償)年金の受給権を有する被害者が、常時または随時介護を要する状態にあり、現に、常時または随時介護を受けている場合には、介護(補償)給付を受け取ることができます。
業務中の労働災害のケースでは「介護補償給付申請書」(様式第16号の2の2)に必要事項を記入して、労働基準監督署に提出します。
申請にあたっては、医師の診断書や、介護に要した費用を証明する書類を添付する必要があります。

申請の期限

労災保険の給付には、時効があります。
そのため、一定の期限までに給付の申請を行わないと、時効により請求権が消滅してしまい、給付を受けられないことになりますので、注意が必要です。

時効の期間は、労災保険の給付の種類によって異なりますが、おおむね、次のとおりです。

給付の種類 時効の期間
療養(補償)給付 療養費用を支出した日の翌日から起算して2年間
休業(補償)給付 休業した日の翌日から起算して2年間
傷病(補償)年金給付 時効期間なし(労働基準監督署長が決定するため)
障害(補償)給付 傷病が治った(症状固定した)日の翌日から起算して5年間
遺族(補償)給付 被害者が亡くなった日の翌日から起算して5年間
葬祭料(葬祭給付) 被害者が亡くなった日の翌日から起算して2年間
介護(補償)給付 介護を受けた月の翌月初めから起算して2年間

労災保険の申請における会社側(事業主)の証明と意見申出

各種の労災保険の給付申請書には、会社側(事業主)の証明欄があり、原則として、労働災害の被害に遭った事実や賃金関係について、会社側の証明が必要となります。
会社側は、労働災害の被害者またはその遺族から、負傷・発病の年月日、労働災害の原因、労働災害の発生状況等、労災保険給付の申請のために必要な証明を求められたときは、速やかに証明を行わなければいけません。

しかしながら、場合によっては、会社側がその証明を拒否するとか、労働災害の原因等を把握できない等の理由で証明が得られないこともあり得ます。
その場合には、被害者またはその遺族は、会社側が証明しないことを労働基準監督署に対して説明した上で、会社側の証明がない状態で労災保険の給付申請を行うことが可能です。

また、会社側は、労災保険の給付請求について、意見があるときは、労働基準監督署に対して、意見申出を行うことができます。
会社側は、労災保険料を支払っている立場でもあり、労働災害の成否や保険給付の有無について関心が高いことから、意見申出をすることが認められています。

労働災害に関する基礎知識についてはこちらもご覧下さい

●労働災害に関する基礎知識
●労働災害とは
●労災保険の申請手続
●労災申請の手続の流れ
●労働災害の被害に遭った時にかかるべき医療機関と制度の仕組み
●労働災害と後遺障害等級
●後遺障害が残った場合の補償について
●後遺障害等級を適正化するポイント
●労災保険の不支給決定に対する不服申立ての手続
●労働災害と損害賠償(労災保険の給付以外に受けられる補償)
●入院・通院時の損害賠償
●労働災害における慰謝料の請求
●休業中の補償について
●損害賠償金の計算方法
●過失相殺について