1 建設業における墜落・転落事故について

建設業における労働災害では、過去50年間の統計でみると着実に減少しているものの、いまだに年間300人近くの方が亡くなっています(令和3年は288人)。
そして、建設業における死亡災害、死傷災害(死亡災害+負傷して4日以上休業した労働災害)で最も多い災害は、墜落・転落事故です。
死亡災害では約4割(令和3年は110人)、死傷災害では3割を墜落・転落事故が占めています。

このように、建設業における墜落・転落事故は、死亡災害の発生リスクが非常に高いといえます。
死亡災害を墜落箇所別に見ると、屋根・屋上等の端・開口部からの災害が約3割、足場からが約2割を占めています。
その他、はしご、脚立からの墜落・転落事故が近年増加傾向にあります。

「建設業における墜落・転落災害防止対策の充実強化に関する実務者会合報告書」に示されている災害の特徴は、次のとおりです。

〇屋根等の端・開口部からの墜落・転落災害では、特に小規模工事において、対策を実施するためのノウハウの不足等から手すり等の設置や要求性能墜落制止用器具の使用等、法令上の措置が不十分。
〇足場での通常作業中の墜落・転落災害では、手すり等がなく、足場の安全点検が行われていない事例が散見されている。
〇一側足場にあっては、法令上手すり等の設置義務がない。
〇足場の組立・解体中の墜落災害では、手すり等がない場合に墜落制止用器具を親網にかけておらず転落したケース等が認められた。

2 労災保険の申請でお困りのときは

建設業における墜落・転落が労働災害として認定されて給付金の受給が可能となるためには、一般的に、「業務遂行性」と「業務起因性」という2つの要件を満たす必要があると整理されています。
業務起因性とは、墜落・転落による死傷が業務を原因として発生したことをいいます。
業務遂行性とは、墜落・転落事故の被害者が使用者の指揮命令下にある状態で、墜落・転落によって死傷したことをいいます。
これらを踏まえると、業務時間中の作業で発生した墜落・転落事故であれば、いずれも認められるのが一般的です。

労働災害の被害に遭われた場合において、会社・元請が労災保険の適用に応じてくれればよいのですが、労災申請に協力してもらえないこともあり得ます。
このような場合には、会社・元請に対して、「労災かくし」が違法行為であることを警告しながら、労災申請への協力を強く要求していくことが考えられます。
一方で、労災申請の手続は、必ずしも会社・元請にやってもらう必要があるわけではありません。
労働基準監督署に対し、会社・元請が労災申請に協力してくれなかった(「事業主の証明」欄への押印を拒否された)事情等を記載した書面を添付して、被害者側で行うことも可能です。

いずれにしても、労災保険の申請に関する対応を被害者側がご自身で行うことは、大きな手間と時間、精神的負担を伴うものですので、弁護士のサポートのもとに対応されることをお勧めいたします。

3 会社・元請に対する損害賠償請求が可能なケースもあります

建設業における墜落・転落の労働災害において、その発生について会社・元請に責任が認められる場合、損害賠償請求が可能なケースがあります。
墜落・転落では、重篤な後遺障害を負うことや、お亡くなりになることが多く、労災保険だけではカバーしきれない損害もあります。
被った損害に対して適正な補償を受けるためには、会社・元請に対して損害賠償請求の実施を視野に入れるべきでしょう。
ただし、会社・元請に対して損害賠償請求をする場合、安全配慮義務違反、不法行為責任、使用者責任という、いずれかの法的根拠が必要です。

安全配慮義務とは、労働者に対して使用者に課されている義務で、労働者が安全で健康に働くことができるように配慮する義務のことです。
たとえば、高所での作業がある場合、墜落・転落防止対策を取らなくてはなりませんし、そのために必要な器具を準備し装着させる等、労働者に対し、十分な指導を行わなければなりません。
もし、墜落・転落防止対策を取らなかった、十分な指導が行われていなかったという場合には、会社・元請は安全配慮義務に違反したとして、損害賠償請求が可能です。

不法行為責任は、労働災害の発生が企業の組織や活動そのものを原因とするような場合や、労働現場の建物や設備に危険があった場合などに認められる責任です。

さらに、同僚のミスによって墜落・転落事故が発生した場合、その同僚の使用者である会社・元請に対しても損害賠償請求することが可能で、これを使用者責任といいます。

4 会社・元請に対して責任を追及するために

建設業において墜落・転落事故が起きた際、例えば以下のような点で、会社・元請の責任が追及されることになります。
・落下防止のための柵や帯など、十分な対策は施されていたか
・被害者の健康状態を把握していたか
・作業工程には時間的に無理がなかったか

上記の点で会社・元請に落ち度がある場合、損害賠償請求が可能となる可能性が高くなります。
しかしながら、ほとんどの方が労働災害の被害に遭うこと自体初めての経験であり、どのように会社・元請との交渉を進めればよいか分からずにストレスを感じられることも多いかと思います。
また、会社・元請が責任を全否定してくることや、被害者の過失(過失相殺)を根拠に損害賠償額の大幅な減額を主張してくることも少なくありません。
このような場合には、会社・元請との交渉はいっそう困難を極め、また、事故状況に関する資料の収集も容易ではありません。

労災申請の場面だけでなく、この会社・元請に対する損害賠償請求の場面でも、被害者側で様々な対応を行うことは、大きな手間と時間、精神的な負担を伴うものです。
そのため、建設業における墜落・転落事故に遭われた方やご遺族の方は、労働災害に精通した弁護士のサポートのもとに対応されることをお勧めいたします。

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