1 油圧ショベルとは

油圧ショベルは、掘削や整地などの作業に欠かせない建設機械の一種で、本体から伸びた大きなアームが特徴です。
この建設機械は、バックホー、ユンボ、ドラグ・ショベル、パワーショベル、ショベルカーなどと呼ばれることもあります。
このように様々な呼称があるのは、マスコミなどでも広く使われている一般的な呼称、行政用語として普及している呼称、商品名由来で普及している呼称などが様々あるためです。
もっとも、いずれの呼称についても、全て油圧ショベルのことを指しています。
以下では、社団法人日本建設機械工業会が統一名称として提唱し、主に建設業界や流通で呼ばれている「油圧ショベル」に統一して解説いたします。

2 油圧ショベルによる労災事故の事例

厚生労働省(労働基準監督署)から公表されている油圧ショベルによる労災事故の事例として、死亡・重傷事故の主な発生原因である「後退中あるいは前進中にひかれる」「バケットの直撃」「作業中の横転・転落」について、それぞれご紹介いたします。

(1) バックしてきた油圧ショベルにひかれて片足を切断

【発生状況】
被害者は、マンション解体工事現場において、ゴミ拾い作業をしていた。
別の作業者が油圧ショベルをバックさせてきたため、被害者は、慌てて逃げようとしたが、凹凸の多い現場であったため、途中で引っかかり転んでしまった。
そして、油圧ショベルのキャタピラーに片足をひかれて切断した。
【会社の責任として考えられる発生原因】
バリケードを設置して危険箇所への作業者の立入りを防止する・誘導者を配置する、などの危険防止措置を講じていなかったことが考えられる。

(2) 油圧ショベルが横転して運転者が死亡

【発生状況】
被害者は、河川改修工事現場において、油圧ショベルを使用して土のうを運搬する作業をしていた。
被害者の作業は、油圧ショベルを使用して、右岸上にある土のうを、バケットのフックにロープにより玉掛けしてつり上げた後、仮設道を通り、左岸側の河川敷まで運んで下ろすというものであった。
何回目かの運搬作業で、右岸上において土のうをつり上げて旋回したところ、油圧ショベルが横転し、3メートル下の河床まで回転しながら転落した。
転落した際、運転者である被害者は、機体の外に放り出され、油圧ショベルのキャタピラーの下敷きになって死亡した。
【会社の責任として考えられる発生原因】
油圧ショベルを主たる用途以外の用途に使用させたこと、油圧ショベルの種類や能力・作業方法等について示された作業計画書が作成されていなかったこと、油圧ショベルの運転者に対して安全衛生教育を実施していなかったことが考えられる。

(3) 油圧ショベルのバケットに激突されて死亡

【発生状況】
被害者は、農業水利整備工事現場において、河川の法面にコンクリートブロックを設置する作業をしていた。
被害者の作業は、別の作業者が油圧ショベルを使用して投入した砂利・土砂を充てんするというものであった。
その作業において、右旋回させるつもりの油圧ショベルを左旋回してしまった結果、ブロック設置場所にいた被害者は、バケットに激突されて死亡した。
【会社の責任として考えられる原因】
油圧ショベルの作業範囲内への作業者の立入りを禁止する・作動範囲に立ち入っているときの運転停止を指示する・誘導者を配置する、などの危険防止措置を講じていなかったこと、作業標準が作成されていなかったこと、安全衛生教育が行われていなかったことが考えられる。

3 労災申請の手続

労災申請の手続は、労災事故の被害者ご本人やご遺族が、被害者の勤務先(事業所)を管轄する労働基準監督署へ、労災請求用紙や添付書類を提出することで行います。
労災請求用紙には、「事業主の証明」という事業主が押印(証明印)をする欄がありますが、残念ながら、会社側が様々な理由をつけて押印を拒否する場合や、押印を行わずに請求を引き延ばす場合が少なからず見受けられます。
請求が遅れると、時効により請求する権利が消滅してしまう危険がありますので、会社側が労災申請に協力してくれない場合には、労災事故に詳しい弁護士にまずはご相談ください。

4 労災保険による補償

労災保険の補償には、治療費(療養補償給付)、休業損害(休業補償給付)、後遺障害が残った場合には後遺障害逸失利益(障害補償給付)、介護が必要となった場合には介護費(介護保険給付)、死亡した場合には死亡逸失利益(遺族補償給付)、葬儀費用(葬祭給付)などがあります。

5 会社に対する損害賠償請求

労災事故の発生において、会社に安全配慮義務違反または使用者責任がある場合には、会社に対して、慰謝料・損害賠償を請求することができます。
労災保険による補償は、損害賠償の一部を填補するものに過ぎません。
慰謝料(精神的苦痛に対する損害賠償)については、一切補償がありません。
そのため、十分な被害回復のためには、会社に対する損害賠償請求が重要となります。

6 弁護士にご相談ください

会社に対する損害賠償請求は、会社に安全配慮義務違反または使用者責任がある場合に可能となります。
その安全配慮義務違反または使用者責任を追及するためには、先ほどの労災事故の事例で述べたような発生原因に対する会社の責任を、丁寧に検証して主張する必要があります。
その際には、関係する法律の知識や裁判例の分析も必要となりますので、専門家である弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。
当事務所では、労災事故の事案に関する取扱経験・解決実績が豊富にございます。
ぜひ一度、当事務所にご相談いただければと存じます。

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