はじめに

近年、長時間労働やパワーハラスメントなどが原因で、うつ病などの精神疾患を発症してしまう方が増えています。
また、うつ病などの精神疾患を発症し、自殺(自死)・自殺未遂に至ることもあります。
うつ病などの精神疾患(精神疾患による自殺・自殺未遂を含む)についても、一定の要件を満たすことで労災保険の補償が受けられますし、会社に対する損害賠償の請求が可能なケースもあります。
このページでは、うつ病などの精神疾患の労災認定基準、精神疾患が労災認定された場合の補償内容、会社側に対する損害賠償請求について、ご説明させていただきます。

精神疾患の労災認定基準

うつ病などの精神疾患(精神疾患による自殺・自殺未遂を含む)については、他の労働災害(労災)とは異なる労災認定基準が設けられています。
2020年に労働施策総合推進法が改正され、パワーハラスメントについても、精神疾患の労災認定の対象に入りました。
精神疾患が労災認定を受けるためには、厚生労働省が定める労災認定基準として、以下の3つの要件を満たす必要があります。

①対象疾病である精神障害を発病したこと。
②対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること。
③業務以外の心理的負荷および個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと。

以上の3つの要件について、解説いたします。

①対象疾病を発病したこと

労災認定の対象となる精神障害は、以下のとおりです。

病状性を含む器質性精神障害
精神作用物質使用による精神および行動の障害
統合失調症、統合失調症型障害および妄想性障害
気分(感情)障害
神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害
生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群
成人のパーソナリティおよび行動の障害
精神遅滞(知的障害)
心理的発達の障害
小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害
特定不能の精神障害

業務に関連する代表的な精神障害は、うつ病(「気分(感情)障害」のカテゴリー)や急性ストレス反応(「神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害」のカテゴリー)です。
これらの精神障害を発病しているという医師の診断書を取得するようにしましょう。

この点、自殺・自殺未遂の場合には、病院への通院歴がないことも多いですが、あきらめる必要はありません。
通院歴がまったくなくても、労災認定される可能性は十分にあります。
自殺・自殺未遂までの被害者の様子について、医学的な検討・立証ができれば、この要件は十分にクリアできます。

②発病前の約6か月間に業務による強い心理的負荷が認められること

厚生労働省が定める労災認定基準の「業務による心理的負荷評価表」により、心理的負荷が「強」と評価されることが要件となります。

例えば、次のような出来事があった場合には、心理的負荷が「強」と評価されます。

会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミスをし、事後対応にも当たった。
部下に対する上司の言動が業務指導の範囲を逸脱しており、その中に人格や人間性
を否定するような言動が含まれ、かつ、これが執拗に行われた。
胸や腰等への身体接触を含むセクシュアルハラスメントが継続して行われた。

また、次のような長時間労働は、心理的負荷が「強」と評価されます。

発病直前の1か月間に、おおむね160時間超の時間外労働を行った。
上記に満たない期間にこれと同程度(例えば、3週間におおむね120時間以上)の時間外労働を行った。
発病直前の連続した2か月間に、1か月当たりおおむね120時間以上の時間外労働を行った。
発病直前の連続した3か月間に、1か月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行った。

労働時間が分かるタイムカードや、ハラスメントの事実が分かる会話の録音などが証拠となりますので、これらの証拠を確保するようにしましょう。

③業務以外の心理的負荷と個体側要因によるものではないこと

業務以外の個人的な問題が原因で精神障害を発病した場合には、労災認定を受けることはできません。

例えば、次のような出来事があった場合には、精神障害の発病の原因が慎重に判断されることとなります。

離婚または夫婦が別居した。
自分が重い病気やケガをした、または流産した。
配偶者や子ども、親または兄弟が死亡した。
配偶者や子どもが重い病気やケガをした。
親類の誰かで世間的にまずいことをした人が出た。
多額の財産を損失した、または突然大きな支出があった。
天災や火災などにあった、または犯罪に巻き込まれた。

また、就業年齢前の若年期から精神障害の発病・寛解を繰り返し、労災申請に係る精神障害がその一連の病態である場合や、重度のアルコール依存がある場合など、個人的な要因で精神障害を発病したケースについては、労災認定を受けることはできません。

精神疾患が労災認定された場合の補償内容

うつ病などの精神疾患が労災認定されれば、次のような労災保険給付を受けることができます。

①療養補償給付

精神科などの治療費が労災保険から全額支給されます。

②休業補償給付

療養のために会社を休業している期間について、給与のおおむね8割が労災保険から支給されます。

③障害補償給付

治療を継続しても症状がこれ以上改善しなくなり、後遺障害が残ってしまった場合には、障害の程度に応じて労災保険から障害補償給付が支給されます。
精神障害の後遺障害は、次の3つの区分により認定されます。

第9級 通常の労務に服することはできるが、精神障害のため、就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの。
第12級 通常の労務に服することはできるが、精神障害のため、多少の障害を残すもの。
第14級 通常の労務に服することはできるが、精神障害のため、軽微な障害を残すもの。

④遺族補償給付

うつ病などの精神疾患を発症し、自殺してしまった場合には、労災保険から遺族補償給付が支給されます。
遺族補償給付には、遺族補償年金と遺族補償一時金があります。
また、一定額の葬祭料も支給されます。

会社側に対する損害賠償請求

うつ病などの精神疾患(精神疾患による自殺・自殺未遂を含む)について労災認定を受けたとしても、労災保険からの給付だけでは、被害者・ご遺族の損害がすべて填補されるわけではありません。
また、労災保険からは、慰謝料が一切支給されません。
そこで、労災保険では填補されない部分の損害については、会社側に対する損害賠償請求を検討することとなります。

この点、会社側に不法行為責任や安全配慮義務違反、使用者責任が認められる場合には、会社側に対する損害賠償請求が可能です。
労災認定において、労働基準監督署が長時間労働やパワーハラスメントなどの事実を認定したのであれば、会社に対する損害賠償請求が認められる可能性が高いでしょう。

弁護士にご相談ください

うつ病などの精神疾患(精神疾患による自殺・自殺未遂を含む)については、他の労働災害(労災)とは異なる労災認定基準を十分に理解し、長時間労働やパワーハラスメントなどの事実を証明するための適切な証拠を確保するなど、専門的な技術・知識が不可欠となります。
精神障害の労災申請や会社に対する損害賠償請求をお考えの方は、専門家である弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
八戸シティ法律事務所では、労災問題に詳しい弁護士が労災申請・損害賠償請求の手続をサポートさせていただきます。
まずはお気軽に八戸シティ法律事務所にご相談ください。

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