1 腕の切断が発生するケース

仕事中に腕を切断してしまう事故が生じることは稀にあります。
腕の切断が最も多いケースとしては、製造業において切断機、ロール機、プレス機などに巻き込まれるパターンになります。
その他にも、農林業においてチェーンソーを使用した場合や高所からの落下により腕を損傷した場合も挙げられるでしょう。
さらには、仕事中の交通事故によって発生することもあり得ます。

このように、腕の切断というのは、程度は異なりますが、どの業種でも起こり得る事故であると言えます。

2 腕の切断による後遺障害について

腕を切断してしまった場合、当然、腕が回復することはありません。
腕の損傷の程度によって、以下のとおり、後遺障害等級が決まってきます。

①両上肢をひじ関節以上で失ったもの 第1級の6
「ひじ関節以上で失ったもの」というのは、以下のいずれかの類型を指します。
・肩関節において、肩甲骨と上腕骨を離脱したもの
・肩関節とひじ関節との間において上腕を切断したもの
・ひじ関節において上腕骨と橈骨及び尺骨とを離脱したもの

②両上肢を手関節以上で失ったもの 第2級の3
「手関節以上で失ったもの」というのは、以下のいずれかの類型を指します。
・ひじ関節と手関節との間において切断したもの
・手関節において、橈骨及び尺骨と手根骨とを離脱したもの

なお、手関節より先、つまり、指の切断は手指の欠損ないし用廃に当たり、腕の切断には当たりません。

③1上肢をひじ関節以上で失ったもの 第4級の4

④1上肢を手間接以上で失ったもの 第5級の2

3 腕の切断事故が労災認定されるまでの流れ

まず、労災認定されるためには、医療機関での治療を受ける必要があります。
その際、労災指定病院で受診すると、窓口での治療費の支払いが不要になります(受診自体は労災指定病院以外でも可能ですが、その場合、一時的に自己負担することとなり、後に請求する形となります)。
なお、医療機関には、労災による怪我であることは必ず伝えなければなりません。

そして、必要書類(所定の書式あり)を、事業所を管轄する労働基準監督署に提出します。
労災から受けられる補償としては、治療・入通院といった療養(補償)給付だけでなく、休業(補償)給付などもあるため、これらも必要書類を労働基準監督署に提出することになります(それぞれの給付ごとに書式が異なります)。
なお、それぞれの書類には、事業主(会社)の証明が必要です。
もっとも、会社が証明(書類に署名捺印)に協力してくれない場合であっても、被災労働者本人が直接労働基準監督署に提出することで、労災の申請は受理されます。

労働基準監督署による調査の結果、労災事故と認定されると、労災保険の給付を受けることができます。

なお、前述した後遺障害は、治療をしたけれどもこれ以上症状が改善・増悪しなくなった段階、つまり、症状固定となって初めて申請することができます。
そのため、症状固定となったら、同様に、医師に、所定の後遺障害診断書を作成してもらい、再度、労働基準監督署に申請することが必要です。
そして、労働基準監督署が審査することで後遺障害等級が決定し、そこで初めて障害(補償)給付を受けることができます。

4 腕の切断が労災認定される条件とは?

労災が認められるためには、仕事中の事故であること(業務遂行性)と、業務に起因して負傷したこと(業務起因性)の両方が認められる必要があります。
業務遂行性とは、労働契約に基づいて事業主の管理下で業務を遂行していた際に発生した事故であることをいいます。
これに対し、業務起因性とは、業務と負傷の間に因果関係があることで、業務に関連する作業中に起きた骨折は通常認められます。
前述した業種の事故であれば、いずれも問題なく労災認定されます。

他方、交通事故については、運送業や業務中の事故であればともかく、そうでない場合に発生した事故であれば、業務遂行性が認められない可能性があるので、注意が必要です。
ただし、労災認定は、「業務災害」だけでなく「通勤災害」の場合でも、労災認定の対象になります。
そのため、自宅と会社の間を通常往復している経路で発生した事故であれば、労災認定されることになるので、極端な遠回りや寄り道をしていた場合でなければ、実際には問題になりません。

5 腕の切断によって会社に損害賠償をする場合

まず、前述したように、労災申請をすることで、労災保険から、療養(補償)給付、休業(補償)給付、障害(補償)給付などといった一定の補償を受けることは可能です。
これらは、損害の一部を補償するものでしかなく、特に慰謝料については全く補償されません。
そのため、このような賠償を受けるためには、会社に対して損害賠償をする必要があります。

会社に対して損害賠償をするためには、会社に安全配慮義務違反や注意義務違反(過失)が認められる必要があります。
安全配慮義務とは、労働者の生命・健康を危険から保護するよう配慮する企業の義務のことを言います。
一般に、会社が労働安全衛生法令やガイドラインに違反していた場合には、安全配慮義務違反が認められます。
例えば、危険な機械を利用する際に、安全装置を設置していなかったり、防護装備を準備していなかったり、労働者に安全教育・指導を施していなかったりした場合などが該当します。

このような会社に義務違反があったことについては、被災者側で証明する必要があります。
もっとも、よほど被災者が特異な態様で労災に遭ったというのでない限りは、多かれ少なかれ、会社に義務違反が認められる傾向にあります。
しかし、会社に義務違反が認められるとはいっても、被災者の態様によって、過失相殺が認められることがあり、その程度によっては、会社に認められる賠償金が大きく減額してしまう恐れがあります。
そのため、会社の義務違反を証明するためには、適切な資料を集めるとともに、会社が負うべき義務とその違反の有無などを細かく検討する必要があることから、法的な専門知識が必要不可欠です。

6 労働災害でお悩みの方は当事務所にご相談ください

労災の被害を受けた方にとっては、今後の生活が不安で、労災申請や損害賠償についてまで頭が回らない方も珍しくありません。
また、後遺障害の認定申請についても後遺障害の証明のための資料収集が煩雑です。
さらには、会社に対する損害賠償請求に至っては、前述した法的な専門知識が必要であるため、弁護士によるサポートは必要不可欠です。

当事務所では、これまで労災に関する相談・依頼を多数対応してきた実績があります。
また、被害に遭われた本人が相談することができない状態にある場合には、ご家族からのご相談にも対応しております。
労災の被害でお悩みの方は、お気軽に当事務所にお問い合わせください。

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